アルツハイマー病患者では脳での炎症反応が亢進していることや非ステロイド性抗炎症薬剤(NSAID)の服用者にアルツハイマーの発病リスクが少ないことから、NSAIDのアルツハイマー病に対する有効性が認められているが、この薬物はシクロオキシナーゼ(COX1)を阻害するため胃腸障害や肝臓・腎臓毒性を有する副作用を持っている。
FrautschyとColeのグループは、抗酸化作用と抗炎症作用を併せ持ち、副作用のないクルクミンに着目して、アルツハイマー病の動物モデルを使った2つの実験を報告している。ターメリック(熱帯ウコン)をカレーなどの食材として日常的に摂取しているインドの70歳代のアルツハイマー病患者数がアメリカを比較して4分の1程度であることが、その主要成分クルクミンに着目した理由としている。
生後9ヶ月〜19ヶ月のラットにクルクミン入りのエサを2ヶ月間与えた後、アミロイドベータを1ヶ月間海馬への注入を行った。
水迷路試験の結果、アミロイドベータ注入による空間記憶の獲得障害が誘発されるのに対してクルクミン投与群では正常群と同じ程度の成績が保たれた。脳内でのアミロイドベータの沈着やミクログリアの増加に対してクルクミン投与群では抑制効果が示され、シナップス前のマーカーであるシナプス小胞タンパク質シナプトフィジン(synaptophysin)の大脳皮質での発現量はアミロイドベータ注入により減少し、この作用に対し、非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID) イブプロフェン(ibuprofen)は無効であったのに対し,クルクミンは改善作用を示した.
アミロイド前駆体タンパク質の変異遺伝子のトランスジェニツクマウスを用いた実験では,クルクミン入りの餌を4か月与えた後,脳内の炎症性因子等の発現が検討されている.ここでもクルクミン投与群ではアストロサイトやミクログリアの減少が認められるとともに,インターロイキン1β、可溶性アミロイドベータや老人班の発現,タンパク質の酸化のいずれもが抑制された.
クルクミンの抗酸化作用、抗炎症作用は、転写因子NF-kBによって制御されている。
iNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)、
COX2(シクロオキシナーゼ2)及び炎症性サイトカインの発現を抑制することにより発揮されるものと考えられている
NF-kBを不活性型に制御している蛋白 IkBはリン酸化を受けることにより分解し,NF-kBを活性型として遊離するが,クルクミンは蛋白 IkBαのリン酸化過程や,そのリン酸化酵素である
IkB キナーゼ 1及び2の活性を抑制することにより,NF-kBの転写活性を減少することも報告されています.
ターメリック(熱帯ウコン)には,主成分クルクミノイドにクルクミン以外にもデメトキシクルクミン(demethoxycurcumin)やビスデメトキシクルクミン(bisdemethoxycurcumin)という成分が含まれており、PC12細胞(ラットの副腎髄質由来の褐色細胞腫で、神経細胞分化のモデルとして使用される)や血管内皮細胞におけるアミロイドベータ誘発による細胞死を,クルクミンよりも低濃度で抑制することが示されている。とアルツハイマー病の改善に有効であるとして提唱されている。
出典:富山医科薬科大学和漢薬研究所 東田千尋氏レポートより
(参考文献:ファルマシア Vol.38, No.9, 891-892 、2002) |