1990年代まで、うつ病の患者数は、40万人台を推移していた2002年 71万人 → 2005年 92万人 → 2008年 104万人 と急激に上昇している。
日本で大量に処方されているSSRIの発売年度を見てみると、2002年 パキシル発売、 2006年 ジェイゾロフト発売・・・・うつ病と診断される患者数と薬剤の発売に相関関係があるように見受けられるほどである。このデータは、ある著名な「うつ病」の先生の講演に提示されたものです。
そして、一般医療費は、この10年間で約10%程度の上昇であるが、精神科心療内科領域は40%以上も上昇している。これらの薬剤は依存性があり、量を減らすことや止めることが難しいということですが、真にうつ症状が改善されていけば、この数値には大いに疑問が残るところです。
薬剤の話とは別に、何故、ここ10年ほどの間にうつ病の患者数が増大しているか、ある日本の研究者らの調査によると30歳から67歳の、530人(男性313人、女性217人)の公務員について、定期健康診断にあわせて調査を行いました。うつの評価にはCES-D(セスデー、合衆国国立精神保健研究所疫学的抑うつ尺度)という確立した尺度を用いた。
113人(36.1%)の男性と79人(36.4%)の女性が、うつ症状があると判定されました。そして血清中の葉酸レベルに応じて4段階に分け、葉酸値の最も低い群がうつになるリスクを1とし、各群のリスクを比較しました。その結果、葉酸値が高くなる順にリスクが低くなることが分かった。その逆に血清中のホモシステインが高いと、うつになるリスクが高まることが示されました。
ボストン大学のMerrill F. Elias博士が示した最新のデータは、Framingham Offspring Studyからのもので、これはマサチューセッツ・コミュニティの住民の健康をずっと追跡している進行中の調査である。
American Journal of EpidemiologyにおけるElias氏たちのレポートによると、60歳以上の人々で、血中の総ホモシステイン量が増加すると、いくつかの領域において認知力や気力のレベルが低下するという関係があったという。高齢者では、ホモシステインの血中濃度が高いと、精神的な機能が低下するという関係がみられることが、これらの新しいデータからわかった。
アラバマ大学の研究者らは、うつ病、精神分裂症患者の赤血球を調べたところ、メチオニンアデノシル転移酵素の量が減少していることを見つけ、脳内でアデノシルメチオニン(SAMe)を十分に作っていない事を発見した。「ムーブメント・ディスオーダー・ジャーナル」で発表された。
ホモシステインはアミノ酸・メチオニンの中間代謝物質です。通常、ホモシステインは葉酸・ビタミンB12によってアデノシルメチオニン(SAMe)の前駆体メチオニンに戻るかビタミンB6により細胞内で作られる最強の抗酸化物質、グルタチオンの前駆体システインの材料となる有用物質です。
しかし、栄養素摂取不良やLH比の悪化による代謝不良から葉酸を含むビタミンB群や亜鉛の不足を招き、この変換がうまくできなくなると、肝臓より全身の血管に流れ出て、高ホモシステイン血漿になってしまう。その結果、動脈硬化を進行させてしまい、心臓梗塞、脳卒中、肝障害、腎障害、アルツハイマー病などの疾患に発展してしまう。
増大したホモシステインとうつ病にも明らかな関係が存在します。前述のアラバマ大学の研究における赤血球のメチオニンアデノシル転移酵素量の減少や2000年、イギリスのロンドン、キングスカレッジ病院(King's College Hospital)神経科の研究チームが、うつ病と診断された患者の骨髄液に含まれるアデノシルメチオニン(SAMe)数値の検査によって、一般の人に比べて著しく低かったことなどから、ホモシステインのメチオニンおよびシステインへの変換が、スムーズに行なわれず、うつ症状を発症させていることを示しています。
正式名称は、Sアデノシル-Lメチオニン(S-Adenosyl-Methionine)。SAMe(S-アデノシル-Lメチオニン)は、体内のほぼ全細胞に生じる物質で、人間の体の中で多くの生化学反応に関わっています。鬱症状に対する作用メカニズムはハッキリ解明されていませんが、脳内の情報伝達神経物質、ドーパミンや不安恐怖に作用するノルアドレナリン濃度およびセロトニン代謝への影響などを構成している素材が、葉酸、ビタミンB12であり、SAMeであることを考え合わせると、うつ病の原因物質とみて間違いなさそうです。
SAMeが脳の機能、特に記憶、集中力、不安、睡眠など、年齢とともに低下または増加する症状の予防に対する有効性が高いということが認識され、うつ病、アルツハイマー性痴ほう症、健忘症など、神経の働きにかかわる症状の改善に有効性が高いことが、いくつかの研究報告によって明らかにされています。
欧州やアメリカにおいてアンチエイジングの素材として大変注目され、広まった背景には、1989年に九州大学薬学部の研究チームによってSAMeが脳の働きに重要な役割を担っていることを、マウスによる実験で解明した研究報告が、きっかけになったようです。
ホモシステインはメチオニンというアミノ酸が人間の細胞の抗酸化にとって重要な働きを担っているグルタチオンやS-アデノシルメチオニン(SAMe)という物質に変換するための重要な中間代謝物質です。通常、ホモシステインが、グルタチオンやS-アデノシルメチオニン(SAMe)に正しく変換されるには、葉酸、ビタミンB12、ビタミンB2、ビタミンB6などのビタミンB群と亜鉛などの栄養素の摂取が必要とされています。
しかし、LH比の悪化や中性脂肪過多などによって肝臓内脂質過多から代謝不良を招いてしまうと中間代謝物質ホモシステインが変換できず、血中に流れ出てしまいます。日頃からLDLコレステロールとHDLコレステロールの比率を1.5以下に維持するように対処することが強く求められます。
虚血性心疾患は、うつ症状の程度が高い人に発症、そのリスクは7倍。
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うつ病と心臓病という全く違う病気と、誰もが考えがちですが、実は、両方とも高ホモシステイン血漿が、その原因になっていることがわかってきています。これまで血液中のホモシステイン値が高くなることと多くの病気に関係があることが、徐々に知られてきているようですが、ほとんどの心臓病の専門医は、うつ病の患者が多いことに気がついているのか、そうでないのか、あまり明確な対処がなされていないのが実状のようです。
1985年、筑波大大学院人間総合科学研究科の磯博康教授らのグループは、茨城県の循環器健診の受診者901人の、うつ症状の程度を調べ、このうち脳卒中と虚血性心疾患の患者や経験者を除く、879人を対象に、1996年末までの10年と3ヶ月にわたって追跡調査したことが、新聞のニュースで報じられていました。
その結果、追跡調査期間中に69人が脳卒中、21人が虚血性心疾患になった。検診時に調べておいた、うつ症状の程度と照らし合わせたところ、脳卒中のうち、脳梗塞との間にのみ明らかな関連がみられ、うつ症状の強い人は、そうではない人に比べ、脳梗塞の発症リスクが2倍に上り、虚血性心疾患は、うつ症状の程度が高かった人に多く発症し、そのリスクは7倍にもなったということです。
さらに、2004年、高知県の住民健診の受診者648人の協力を得て、血液中に含まれるアミノ酸の一つホモシステインと、うつ症状の関係を調べたところ、うつ症状が強い人ほど、血中のホモシステイン濃度が高かったという結果になった。
以前は、うつ病といえば精神的な病と捉えられていましたが、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病、アルツハイマー認知症、関節リウマチ、骨折といった病気と同じように高ホモシステイン血漿が原因として明らかにされており、LH比率の改善と葉酸やビタミンB12,ビタミンB6といったビタミンB群の栄養素を日々の食生活で摂取することをこころがけることが大切になります。
LH比率に対しては、動脈硬化が進行するといわれる2以上の方は、1.5以下になるように対応し、LH比率が正常で、うつ症状が認められる方は、葉酸、ビタミンB12、ビタミンB2、ビタミンB6といったビタミンB群の食物を積極的に摂取することが求められています。
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出典
ウェブサイト、ブログ:「統合失調症、低血糖症、うつ病」
「臨床栄養士のひとり言」
「米国総合医療ノート」
熊本日日新聞2005年6月1日夕刊