骨粗鬆症とは、「高齢者の病気」という認識が一般的に思われがちですが、女性ホルモン (エストロゲン) と密接な関係にあることが明らかになってきており、骨粗鬆症は女性の病気だという認識をもつことが非常に重要なこととなっています。
このエストロゲンという女性ホルモンが骨密度に対して、どのように密接に関係しているかを東京大学分子生物学のチームがマウスを使った実験で明らかにしています。骨を破壊〔吸収〕する破骨細胞で、エストロゲンが働かないようにすると骨がスカスカになり、逆にエストロゲンを働かせると破骨細胞の数が減るというメカニズムを突き止め、米専門誌セルに発表しています。
骨は生命維持の根幹を担うカルシウムやマグネシウムの貯蔵庫です。もともと血液細胞であった破骨細胞が古くなった骨からカルシウムを溶かし、心臓の筋肉を規則正しく動かすとともに全身の筋肉を動かして運動を行えるようにしています。この他、細胞分裂の促進、神経の伝達ホルモンを分泌して精神の安定をはかる、出血時の血液凝固作用、唾液や胃液の分泌を調整する作用など私たちの生命維持にとって日々欠かすことが出来ないミネラルです。
私たちの骨組織が血液のカルシウム濃度を恒常的に保つためのカルシウム貯蔵庫として機能するには、骨組織は常に新鮮な状態に保たれていなければなりません。そのために骨組織は一生涯形成と破壊(吸収)を繰り返して骨の再構築(リモデリング)を行っており、その中心的な働きをしているのが破骨細胞と骨芽細胞の二つの骨細胞です。
閉経後のエストロゲンの減少による急激な骨量の低下に対するメカニズムは、マウスを使った実験によると、破骨細胞のERという受容体遺伝子にエストロゲンが供給されなくなると調整力を失った破骨細胞が増殖して骨をより多く溶かしてしまうので、骨の新陳代謝(リモデリング)をつかさどっていた破骨細胞と骨芽細胞のバランスが崩れてしまい、骨がスカスカになってしまうということです。
破骨細胞が骨を溶かすのに20日ほどを要し、骨芽細胞が壊されたところを再生するのにおよそ3ヶ月を要するそうです。エストロゲンの減少によって破骨細胞の増殖が進んでしまうと、あちこちの骨を壊しはじめ、骨芽細胞による骨の再生が間に合わなくなってしまいます。
ならば、閉経後に減少してしまう女性ホルモンを補えばということで、欧米では以前から薬物による治療が行われてきました。しかし、アメリカにおいて閉経後の女性16000人を上回る大規模な臨床試験で、エストロゲン製剤を単独で長期使用すると子宮内膜の異常増殖を誘発する危険があることが分かり、他の薬剤と併用したが、ガンや脳卒中などの副作用が認められたため中止されました。このことがJournal of American Medical Association.によって広く報じられ、女性ホルモンの補充療法に対する考え方が世界中で変わったということです。 |