北インドのバラブガール村では、アルツハイマー病がとても少ない。世界の多くの地域では高齢者が認知症になりやすいのに、ここではアルツハイマー病の人が稀にしかいないということです。医療に携わる科学者は、この小さな地域でのアルツハイマー病が記録的に少ないことに興味を示しています。
何故、この村ではアルツハイマー病の発症率が極端に少ないのかの原因を探るため、アメリカ・ピッツバーグ大学の研究者が、この地域の55歳以上、5000人以上の人を7年間にわたって調査を行い、その原因についての解明を試みた。
彼ら研究者は、アルツハイマー病になりやすいアポ4Eの遺伝子が少ないかを調査した結果、アメリカのペンシルバニア州のある地域の人たちと比べても、その遺伝子の頻度はまったく同じであることを確認し、この村でのアポ4E原因説は否定されました。
この調査で分かったことは、この村の多くの人は動物性脂肪をほとんど摂取せず、野菜中心の食生活をしており、肥満はほとんど見かけないということです。また、自然に恵まれた農村地域で、ストレスが少なく、家族の絆もインドの他の地域や都市部より強いということがアルツハイマー病と無縁なものとしているとの見解を示しています。
調査を行った医師は、結論として「それらが幸せな体、幸せな心、そして幸せな脳につながっているのです。コレステロール値はとても低く、そのことがこの地域をアルツハイマー病から守っていると信じている。」と述べており、その原因の特定が曖昧にされたまま収束されています。
一方、オークランド大学、Frautschy&Coleグループは、抗酸化作用と抗炎症作用を併せ持ち,副作用のない薬物としてクルクミンに着目し,アルツハイマー病モデル動物を用いた実験結果を報告しています。
ターメリック(熱帯ウコン)は、インドにおいて食品や生薬として日常的に摂取されています。インドでは70歳以上のアルツハイマー型認知症の患者数がアメリカと比較して4分の1程度であることが抗アルツハイマー病の抗酸化物質及び抗炎症物質としてクルクミンに注目して動物実験を行った理由としています。
結果は、実験動物に対してアミロイドベーターを注入すると空間記憶の獲得障害が誘発されるのに対し、クルクミンを投与されたグループは正常なグループと同程度の成績が保持されたということです。脳内でのアミロイドベーター沈着やミクログリアの増加に対してクルクミン投与グループでは抑制効果が示されたとしています。
また、別の実験においてクルクミン投与グループではアストロサイト(中枢神経系で働く神経幹細胞由来のグリア細胞)やミクログリア(脳や脊髄などの中枢神経系の組織にいる細胞であるグリア細胞)の減少が認められるとともに,インターロイキン-1β,可溶性アミロイドベーターや老人班の発現,タンパク質の酸化のいずれもが抑制された。
「ターメリック(熱帯ウコン)にはクルクミンの他にもクルクミノイド成分を含有しており,デメソクルクミン(demethoxycurcumin)やビスデメソクルクミン(bisdemethoxycurcumin)はPC12細胞(神経細胞分化のモデル細胞)や血管内皮細胞におけるアミロイドベーター誘発による細胞死を,クルクミンよりも低い濃度で抑制することが示されています。故にクルクミノイドはアルツハイマー病の有効な物質として検討の対象となりうる。」と報告しています。
北インドのバラブガールの村にアルツハイマー病がとりわけ少なかったのは、のどかな農村地帯という恵まれた自然環境とストレスのかからない人間関係もさることながら、ほとんど毎日の食生活にターメリックやさまざまなハーブ香辛料を使用したカレーという食文化に由来するところが大きかったのではないかと推察されます。
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インターロイキン-1β、weblio辞書より
免疫反応の最初に主にマクロファージが作るサイトカインの一つ。αとβの2種類がある。ヘルパーT細胞からインターロイキン-2を出させ、結果としてT細胞を増やしたり活動的にさせる。インターロイキン1は炎症の中心であり、発熱の原因にもなる。 |
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